今日、海に入っていい? 
ライフセーバーが伝える、OWS初心者のための安全判断ガイド

楽しいOWSは、正しい判断から始まる

はじめに|今日、海に入っていいかを判断する安全ガイド

海・湖・川で泳ぐオープンウォータースイミング(OWS)には、プールでは得られない楽しさがある。その一方で、自然環境は毎日、毎時間変わる。
特に注意すべきは、風、波・うねり、そして潮の流れです。
波予報が0.5mを超えるときは、うねりのある海を泳ぐことになると考えてください。風予報が6〜8m/sになると、ライフセーバーでさえ練習内容を見直し始めます。また、低気温はもちろん危険ですが、高気温すぎる場合も熱中症のリスクが出てくるため注意が必要です。

このガイドでは、「今日、海に入っていいか?」を考えるための判断材料を、海で活動するライフセーバー視点も交えて説明していきます。

 

1|まず確認したい3つの基本チェックポイント

海を一人で泳ぐ人

① 風(かぜ)

風の影響は、初心者にとって、もっとも影響が大きい要素のひとつです。
岸から沖へ吹く風(オフショア)や、横から押されるような強い横風には特に注意が必要です。なかでも注意したいのが、「気づかないうちに沖へ流されてしまう」状況です。

判断の目安

  • 白波が立っている
  • 体感で「今日は風が強い」と感じる
  • 風予報で6〜8m(ライフセーバーも練習内容を検討し始める強さ)

現役ライフセーバーに質問

湘南の海で、特に注意すべき「危険な風向き」はありますか?
スイムブイ(補助浮き具)を身に着けて泳ぐ際、北寄りの風は浜から離れる風になるので注意が必要です。知らない間に、沖へ沖へと引かれてしまうリスクもあるので注意です。特に早朝でビーチが温まる前などは、北寄りの風が残っている場合があるので気を付けてもらいたいです。
ライフセーバーは「今日は風が強い」と、何を見て判断していますか?
海では白波の立ち方が一番の目安です。夏期シーズンでは、海の家やライフセーバーの監視所にある旗の動きも参考にしています。砂の舞い方もチェックポイントです。

 

② 波・うねり

「波が低い=安全」――これは、現場でよく見かける誤解です。
周期の長いうねりがあると、呼吸のタイミングが安定しなくなり、顔を上げるたびに視界が揺れ、呼吸のたびに水を飲みそうになるなどの影響が出やすくなります。

現役ライフセーバーに質問

ライフセーバーから見て、初心者が一番パニックになりやすい瞬間はどんな時ですか?
両側呼吸が苦手な方の場合、進行方向によっては波の様子が確認できなかったり、波をかぶる側でしか呼吸ができなかったりすることがあり、注意が必要です。両側呼吸を練習しておくに越したことはありませんが、波の様子が見える側で呼吸しながら横向きに泳ぐことで、急に波が来て慌ててしまうといったリスクを軽減しやすくなります。

 

③ 潮の流れ

一見すると穏やかに見える海でも、実際にはさまざまな流れが存在しています。
なかでも、OWSスイマーが特に注意したいのが「離岸流(リップカレント)」です。気づかないうちに沖へ引き出されてしまったり、必死に岸へ戻ろうとして体力を消耗してしまったりするなど、冷静さを失うことで大きな危険につながることがあります。

現役ライフセーバーに質問

湘南の海で離岸流が発生しやすい場所や条件はありますか?
テトラポットやヘッドランド周辺は最も危険な箇所の1つです。海底が砂地の多い湘南の海では、離岸流の発生箇所が1日の中でも変化したりするので一概に場所を特定するのは難しいです…。台風や波の高い日のあとは、特に砂が動くので潮流の変化を疑うポイントになります。
ライフセーバーは、海を見て「ここ、流れてるな」とどんなサインを見ていますか?
波打ち際で足が横に引っ張られるような感覚があったり、溝のように見える場所があったりした場合は、気を付けつつ、その流れを辿ってみてください。少しでも水深が深い場所には多くの水が流れ込んでおり、それらはやがて沖へ戻る流れになります。そのため、溝の向きが横だけでなく縦にも伸びている場合、その場所は離岸流である可能性が高いといえます。 また、離岸流は浜へ向かう水の流れと逆方向に進むため、流れ同士がぶつかり合っています。周囲の水面と比べて細かなうごめきが多く見られる場所は、離岸流が発生していることが多いので注意しましょう。

 

2|初心者が見逃しやすい「要注意サイン」

混んでいる海の中で、すごく空いている場所があるとき、あるいは人のいる場所に偏りが強いときは、強弱の差はあれど流れが存在しているサインです。このことをイメージしておくだけで、いざというとき慌てずに済むことがあります。
次のような状況が重なったら、一度立ち止まって考えてみる価値があります。

  • 地元の人やサーファーが海にいない
  • ライフセーバーから注意を促されている
  • 入水前から、なんとなく不安を感じている

波の荒い海に佇むスイマー

 

3|「泳がない判断」は、決して後ろ向きではない

「泳がない判断」は、決して後ろ向きなものではありません。泳がないと決める代表的な理由には、自分自身の体調に不安があるとき、気温があまりにも低いとき、天気が悪い日などがあります。さらに、自分のスキルで安全にトレーニングできるイメージがわかないときも、無理をせず避けるべきです。指導者や先導者がいる場合は、安全にできる条件が多少変わることもありますが、自分自身を守るのが自分だけなのか、それとも指導者や安全管理をする人がいるのかという点も、重要な判断材料になります。

初心者の方からは、「せっかく来たのに…」「他の人は泳いでいるのに…」といった声をよく聞きます。しかし、現場を知る立場から伝えたいのは、泳がない判断ができる人ほど、長くOWSを楽しめるということです。

 

4|初心者が避けたい具体的な状況

OWS初心者が特に避けたい海の状況としては、まず強いオフショア(岸から沖へ吹く風)がある場合が挙げられます。また、うねりがあって呼吸が安定しない状態や、流れが読めない場所での単独スイムも大きなリスクになります。さらに、曇天や夕方など視認性が低い時間帯は、周囲の状況を把握しにくくなるため、注意が必要です。

現役ライフセーバーに質問

初心者×単独スイム×初場所_この組み合わせが危険だと感じる理由を教えてください。
まず、初心者に限らず、単独スイムは非常にリスクが高い行為です。何かあったときに周囲へ知らせたり、助けを求めたりできる人がいないこと自体が、大きな危険につながります。 また、初めて訪れる場所が危険とされる理由は、その海域のリスク評価――危険な箇所や注意すべき場所、安全に泳げるエリアなど――を正しく把握できているかどうかが分からない点にあります。ライフセーバーがいる場合は直接確認することができますが、シーズン前などは不在の場合も少なくありません。そのため、事前に情報を集めたり、その場所をよく知っている人と一緒に泳いだりすることが大切になります。
視認性が悪い(曇りや夕方)状況で実際に起きやすいトラブルは何ですか?
視認性という点で見ると、暗い時間帯は他の人との衝突が起こりやすくなります。実際に、明け方に泳いでいるときにサーファーの方とぶつかりかけた経験もあります。スイムブイ(補助浮き具)などを使用すれば、こうしたリスクはある程度改善できるでしょう。 また、意外と見落としがちなのが、日差しが強すぎる場合です。水面からの照り返しによって、周囲の状況がほとんど確認できなくなることもあります。

 

5|ライフセーバー目線で伝えたい装備や意識

装備や意識の面で、ライフセーバーの立場からぜひ伝えたいことがあります。スイムブイや目立つ色のキャップを着けている方は、泳いでいる位置を把握しやすく、個人の特徴もとらえやすいため、ライフセーバー同士での情報共有がしやすくなります。その結果、私たちも安心して見守ることができます。

また、水を飲んでしまってパニックになったり、足が攣ってしまったりするリスクに対しても、スイムブイがあれば、まずは自分自身で安全を確保することができますので、ぜひ活用していただきたいと思います。さらに、視認性はあるかないかで衝突事故のリスクが大きく変わります。キャップの色やラッシュガード、スイムブイなど、工夫をして、しっかりと対策することをおすすめします。

 


 ※本記事は、湘南エリアで活動するライフセーバー・楠本さんの現場での経験や考え方を参考に構成しています。

Noriaki Kusumoto

現役ライフセーバー/楠本慶明

日本のライフセービング界で長年にわたり活動するライフセーバーです。競技者としての経験を活かしながら、水辺イベントの安全管理や教育活動にも尽力しています。公益財団法人日本ライフセービング協会のアクアティックイベントセーフティコーディネーター(ASC)分科会委員を務め、各種イベントにおける安全対策の推進に携わっています。また、競技規則の作成協力やSERC(シミュレーション救助競技)の運営にも関与するなど、競技・教育の両面からライフセービングの発展に貢献しています。近年はドローン技術を活用した監視・救助活動にも取り組み、より安全で効果的な水辺の安全管理の実現を目指しています。

海で泳ぐことは、本当に楽しいですよね。自然からエネルギーをもらいながら、「今日は何キロ泳げた」「何分で泳げた」といった達成感を積み重ねていけるのは、OWSならではの魅力だと思います。だからこそ、ぜひ安全第一で、少しずつスキルアップしながら楽しんでほしいと願っています。

OWSを続けている方の多くは、海で泳ぐことの楽しさだけでなく、そこにあるリスクや不安もしっかり理解しています。そのため、無理にオーバーペースにならず、自分の状態を大切にしながら泳いでいる方が多い印象です。オーバーペースは、必要以上にエネルギーを消耗し、呼吸を乱し、その後の泳ぎを苦しく、時には危険なものにしてしまいます。そうした状況を自分でコントロールできる人こそが、長く、安心してOWSを楽しみ続けられる人なのだと思います。